地域における発達障害児(広汎性発達障害、 ADHD )の母親支援
近年、知的障害を伴わない発達障害児は増加傾向にあるといわれている。 現状における発達障害児の母親の困難を把握し、支援するために必要な地域の資源を検討する。
1.「 発達障害支援においての地域的課題 」
H16 に「発達障害者支援法」が施行された。しかし、支援法は抽象的な理念を掲げ、提示するに留まっているため、障害児・者についての具体的な対応は、都道府県ごとに内容が異なり、支援体制に地域格差が生じている。
長野県では、知的障害者枠に入らない療育手帳の取得ができない発達障害児・者は、精神科医から診断を受けていれば福祉サービスの利用は出来るものの、資金的な援助は皆無である。私がこれまでの本研究の中で得た一番の問題意識は、既存の福祉サービスは、利用者のニーズに対して、あくまで既存の制度に沿ったサービスに当てはめた対応に偏るため、十分なニーズを満たさないものになりがちである。私の研究対象である、発達障害児の母親の困難の多くが、地域における支援体制の分断と、既存の支援資源の乏しさに起因するものと推測された。
①地域に足りないもの →1)発達障害の知識
2)発達障害児の母親への理解
3)既存の資源をつなぐもの
②必要なもの → 1)コーディネート機能
2)発達障害の知識の普及
3)発達障害児の母親の支援
③計画していること → 1)発達障害児の理解推進のための シンポジウム
2)資源をつなぐコーディネート機能がある組織つくり
3)母親が集まれる場の創設
【結 論】 支援 NPO の必要性
地域資源として、発達障害児の母親が困った時、辛い時、気軽に相談でき、一緒に解決方法を考えてくれるカウンセリング機能だけでなく、行動してくれるコーディネート機能が必要である。
現在は、軽度発達障害児を抱える家庭へのサービス資源が不足しているばかりか、フォーマルなサービスとサービスをつなぐコーディネート機能が少ない。
現在配置されているコーディネーターも県が既存の施設に予算を配布し、出向という形式で存続してきたが、具体的な支援が県から各市町村の仕事に移行したため、ここで県からの予算がなくなり、出向していた人材が既存の施設に戻されるという事例が増えている。
その結果、現状でも足りないフォーマルなコーディネート機能が、さらに少なくなる可能性がある。これからは、イン・フォーマルな組織が早急にテコ入れしていかざるを得ない。
特に、母親に対する具体的な支援は現在、諏訪地域にはないも等しく、母親が駆け込める場の創設が必要である。
■研究をベースにした活動 ~ 支援事業シーズの立上げ ~
私は、研究から得た課題解消のための具体的な事業活動として、「発達障害児・者および家族支援の会 シーズ」を平成 20 年 4 月に立ち上げ、現在、活動と並行して本年度中に会を NPO 法人化するため準備中である。
本事業では、発達障害理解に対する啓蒙活動及び、正しい知識の普及を行い地域社会との不調整を軽減していく活動と、発達障害児・者と通常発達児・者の間の不調整を改善するために、相談事業、学習会、当事者の交流会、学習支援、 HP による情報提供と支援、支援者に対する専門分野の研究会、専門家を招いての講演会などを企画、実施している。
グループ名「シーズ」は英語で Seeds 。種の複数形。地域社会に発達障害理解の種を撒き、芽を育て様々な資源を結びつけていくこと、種が育つ豊かな土壌を作ることがシーズのミッション である。
以下、これまでの活動内容と今後の活動予定を記す 。
開催事業
4 月 29 日(水) 第 1 回役員会
5 月1日(木) 居場所となる事務所シーズを開設
5月 16 日(金) 司馬先生講演会打合せ(三鷹)
5月 22 日(木) チャレンジ松本見学会
5 月 24 日(土) 第 2 回役員会
6 月 15 日(日) 交流会 参加者 10 名、第 3 回役員会
6 月 19 日(木) 交流会 参加者 10 名
6 月 23 日(月) 交流会 参加者 10 名
6 月 30 日(月) 交流会 参加者 3 名
7 月 3 日(木) 交流会 参加者 12 名
7 月 7 日(月) 交流会 参加者 10 名
7 月 10 日(木) 交流会 参加者 7 名
7 月 14 日(月) 交流会 参加者 10 名
7 月 17 日(木) 交流会 参加者 8 名
7 月 21 日(月) 交流会 参加者 9 名
7 月 24 日(木) 交流会 参加者 7 名
7 月 27 日(日) 交流会 参加者 13 名
7 月 31 日(木)、 8 月 1 日(金)お舟祭りイベント(メイドカフェ&フリーマーケット)
8 月4日(月) セラピー犬とのふれあい 参加者 6 名
8月5日(火) R for I 「はじめの一歩」参加 3名
8 月 7 日(木) 交流会 参加者 3 名
8 月 8 日(金) 臨床美術教室(篠原先生) 参加者 9 名+保護者 6 名
8 月 12 日(火) 交流会(すまいる合同) 参加者 7 名+ 2 名(中島相談員、寺島先生)
8 月 18 日(月) 交流会 参加者 4 名
8 月 21 日(木) 交流会 参加者 5 名
8 月 24 日(日) 交流会、セラピー犬ふれあい、参加者 、第 4 回役員会
今後の活動事業予定
9 月 18 日(木)「成人後見制度勉強会」(中村先生)
9 月 20 日(土)「療育相談」「臨床美術教室」「理事会」
9 月以降の交流会 毎週木曜午前~、月曜夜、 9 月 20 日 or9 月 21 日
療育相談会 毎月第3土曜日( 11 月は第2週)
10 月 8 日(水)「臨床心理士を招いての学習会」(橋爪先生)
10 月 18 日(土)「 PEP3 勉強会」(土田先生)
11 月初旬 「下諏訪町町興し事業 乾し柿イベント」(商工会議所連携)
11 月 23 日(土) 司馬理英子先生講演会(長野県元気づくり支援金事業)
2 月「人権尊重プログラムセミナー」(長野県人権尊重プログラム助成金事業)
活動の優先順位として最初に行なったのが、助成金申請と、活動及び居場所としての事務所の開設。助成金は県の「元気づくり支援金」「人権尊重プログラム」の2つを得て、今年の大きな事業活動であり、シーズ立上げのデモンストレーションの意味を持っている。
また、下諏訪町の古い雑居ビルの奥の3 LDK を借り、事務所&いつでも集える居場所シーズを開設したことにより、6月の活動開始より現在 20 家族ほどの会員が集まり、週2回の定例交流会の他、勉強会、子ども中心のサブカルチャーの集いなどを実施。夏休みにはタイムケアサービスや地元のお祭りに合わせたフリーマーケット&喫茶などの模擬店を開催した。事業計画は模索中な面が多く、不安定要素も否めないが、相談者との出会いやニーズによるサービス提供を出来る限りしたいと考えている。
定例のサービスの他、実施したものは、以下 5 件。
児童相談所付き添い
タイムケアサービス
セラピードックとのふれあい体験会
障害者職業訓練所見学
就職の面接試験のためのロールプレイ訓練
この他、現在、検討中の案件としては、養護学校を来春卒業し、寄宿舎を出るにあた
り自宅に戻れず、自立して生活が難しい青年を預かるためのグループホーム開設がある。グループホームでは、同時にレスパイトと障害児の体験を増やし社会性を育むことを目的とした「お泊り体験」も実施したいと考えている。
【今後の課題】
まず一番には会の運営資金。現行の制度では、療育手帳のない発達障害者やその支援機関に対する金銭的支援が皆無であること、また、障害の特徴から起こる家庭内不和や児童・母親虐待による離婚も多いため、会員の多くが経済的に困難を呈していること、発達障害についての認知の普及が不十分なことなどから、支援事業の資金は賛助含める会費でまかなっていくのは不可能である。シーズでは支援事業の他、事業費を得るための事業の早急な創設が必要である。
そして、二番目には発達障害を地域の方々に理解していただき、温かい支援や見守りをしていただけるようになるための地域との交流。そして将来的には障害は地域社会にとって邪魔なもの、すなわち悪であるという障害観から、障害は標準とのズレであり、マイノリティ=悪ではなく、お互いの歩み寄りが必要というような発想への転換をいかに図れるかということが課題となる。
【まとめ ~発達障害支援と地域おこし事業~】
以上、現状の課題を考察し、打開していくために、シーズではこの秋より地域の食文化に貢献する事業への参加を計画している。具体的には 8 月末に行なわれた地域ブランド創生事業である「寒ざらし蕎麦の会」における、手作り蕎麦マドレーヌの販売や 11 月に予定されている、「干し柿イベント 」 注) などである。諏訪地域には、大学・専門学校が少ないため高校卒業後、大半の進学者が地域を離れていく。その実状の反面で、発達障害のある子どもたちや当事者の多くは、地域を離れて生活していくのが困難であるため、地域に残って生活している。発達障害児・者が地域に馴染み、地域も発達障害を理解していくことが、発達障害支援では重要である。そのためにも、地域おこしや地域再生を目指した事業に参加し、地域に貢献し、地域で生き残ることこそ、私たち支援グループに必要なことであると考える。
本年度の研究は論文執筆より活動を優先しているため、まだ一般化した理論構築には及ばないが、現時点において、私は本研究より、以上のような活動を創生し実施中である。
注)地域で活用されていない渋柿で干し柿を作り、地域おこしのための観光スポットの一つとされている古民家に吊るし、その風情に貢献し、干し柿をそのままや食材として販売する予定のイベントをシーズと商工会議所で計画中。
